カポエイラ


カポエイラは世界的に見ても珍しい形式で行われるアフロ・ブラジル文化の一つで、弦楽器や打楽器による演奏と歌、そして人びとの輪の中で即興ゲームが繰り広げられる護身型マーシャルアーツです。身体技術は、独特のリズムで繰り出される蹴り技などの駆け引きやアクロバットが特徴的です。 2008年にはブラジル歴史文化遺産研究所(IPHAN)によってブラジル無形文化財として正式に登録され、さらに2014年11月にはユネスコの無形文化遺産に登録され、まさに現代のブラジルを代表する身体文化となりました。

またそれ以前にも、2003年に法令10639号によって、基礎教育段階においてアフロ・ブラジル文化の教育が義務化され、学校をはじめとする様々な教育機関において、アフロ・ブラジル文化の象徴であるカポエイラが体育授業や歴史文化授業として行われています。その教育を通じて、ブラジルの国家形成に必要不可欠であったアフリカ系国民の貢献を知り、その価値を改めて認識することが現代ブラジル社会における課題として掲げられているのです。

さて、カポエイラの起源は、研究者の間では、アフリカのバントゥ系(コンゴ・アンゴラ系)民族の文化に由来する説が有力で、「N'golo」というダンスやゼブラダンスが元になったといわれています。
俗説では、奴隷貿易によってブラジルに連れてこられたアフリカ系黒人が奴隷としての過酷な労働の日々を生き抜くために、精神のよりどころとして故郷アフリカのダンスを踊ったり、護身の練習をしたりしたことがカポエイラの始まりと言われています。また、看守の目を盗んでダンスを踊っているようにカモフラージュをしたという説もあります。
約四百年という年月を経て、今では多様なスタイルや流派が認められます。ですから、一言で表現するのは難しいですが、一般的にカポエイラは左右に揺れる独特な動きを基調に、マリーシアをはじめとする遊び心や狡猾さによって繰り広げられる蹴りやよけ、アクロバット的な動き、そしてパーカッションや歌が融合したアフロ・ブラジル文化のひとつであり、心・精神を通して行う身体のコミュニケーションといえるでしょう。

そして、ブラジルにおいて長く続いた奴隷制が1888年に終焉を迎えて以来、カポエイラは奴隷文化としての負の遺産のレッテルから解放され、人種混淆性というナショナルアイデンティティの形成に取り込まれ変容してきました。このように、アフロ・ブラジル文化カポエイラにはブラジル国民形成の歴史が包摂されているのです。

カポエイラの表現形態に目を向けると、ホーダと呼ばれる輪の中で、二人のカポエィリスタ※が駆け引きをして、流れるような動きで相手の意表をつきながらゲームが繰り広げられ、観る人の目を釘付けにします。そして手拍子や歌、伝統的な民族楽器の演奏でその場を共に創り上げ、盛り上がる一体感は、まさに「共創」を実感できるカポエイラの醍醐味でもあります。

カポエイラは、今カポエイラを実践している人々の生きるエネルギーを表現すると同時に、ブラジルの長く深い歴史も映し出しており、時間と国境を超えて現代の私たちに様々なメッセージを届けています。

※カポエイラをする人


カポエイラの主な構成要素

動きとマリーシア

カポエイラの動きは、実に多種多様です。見た目以上に腕や肩、背中、お腹の筋力や柔軟性も必要とされます。けりやよけ、逆立ちや側転のようなアクロバットな動き、そしてすべての動きの始まりでもあり、終わりでもある「ジンガ」が特徴的な動きとなります。 また、カポエィリスタにはマリーシアmalicia(狡猾さ、ずるがしこさ)が必要不可欠といわれ、マリーシアのあるジョゴ(ゲーム)では非常に複雑で面白い相手との駆け引きが展開されます。

楽器と歌
カポエイラでは、ビリンバウという一弦楽器を中心にパンデイロ、アタバキ、アゴゴといった打楽器で奏でる音楽とリズムが欠かせません。また、歌を歌いながら、輪を囲む人々全員で歌う歌は、全体の一体感を高めると同時に、歌詞にはカポエイラをする時に役に立つアドバイスや歴史的な事実や言い伝えが歌われており、カポエイリスタのアイデンティティをはぐくむ一助ともなります。

ホーダ(集会形式のゲーム)とエネルギー

ホーダとは、ポルトガル語で「集会、円、輪」という意味で、カポエイラではみんなが輪になって、手拍子をし、その輪の中でゲームが繰り広げられます。楽器の演奏と、歌と人々の手拍子が一体となって生み出されるエネルギーは圧巻です。